伝説の盗賊

 澤田瞳子の「のち更に咲く」を読了した。著者は直木賞作家で、歴史、時代小説をテリトリーとしている。大学時代に奈良仏教史、正倉院文書を専攻し、「孤鷹の天」で第17回中山義秀文学賞を受賞して作家デビューしいる。本書は、藤原道長を恨む伝説の盗賊袴垂一味を巡る騒動の顛末を、袴垂に擬せられた藤原保輔の妹の小紅の視点で描いた時代サスペンス小説である。
 本書の語り手は、藤原道長の屋敷である土御門第で女房として仕える、藤原致忠の娘で二十八歳の小紅である。致忠が亡くなって三か月後、致忠の法要が洛東粟田口近くのの山の中の寂れた古寺で営まれる。小紅は牛飼童の牡角丸に連れられ