偽札造りと強盗団

 夕木春央の「時計泥棒と悪人たち」を読了した。著者はミステリー作家であり、2019年に「絞首商会の後継人」で第60回メフィスト賞を受賞し、同作を改題した「絞首商會」で作家デビューしている。本書は「絞首商會」の前日譚であり、帝大法科卒で元泥棒の蓮野を名探偵、油絵画家の井口をワトソン役としたミステリーの連作短編集である。
 「加右衛門氏の美術館」:世田谷の外れに住む蓮野の家を訪ねた井口は、浦川加右衛門という実業家の話をする。加右衛門は美術品蒐集家であるが、成金で鑑定眼は持っていない。井口は後援者の晴海商事の社長の紹介で、油絵を何点か買って貰ったことがあるが