武家再興の夢

 朝井まかての「秘密の花園」を読了した。著者は直木賞作家であり、時代小説、歴史小説をテリトリーとしている。本書は、江戸随一の戯作者となりながらも、生家の滝沢家再興の夢を捨てきれなかった曲亭馬琴の一生を描いた評伝小説である。
 物語は隠居した家の庭の花園を手入れしていた馬琴が、妊娠している息子の嫁の路に声を掛けながら、年上の妻の百の許に入り婿になった頃から過去までを回想する場面から始まる。その花園は彼と長男の宗伯興継の二人で手入れしているものである。路は医家の生まれで米の苦労を知らないで育った女であるが、家付きの百は口煩く、夫を立てることを知らない女である