「万葉集」の日記一覧

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百七)

 今回は、一七三八番歌の一五句からを訓む。  一五句・一六句「己行・道者不去而」は「己(おの)が行(ゆ)く・道(みち)は去(ゆ)かずて」と訓む。「己(おの)」は代名詞で、「(反射指示)その人、またはそのもの自身をさす語。自分。」のこと。下に格助詞「が」を補読する。「行」はカ行四段活用の自動詞「ゆく」の連体形「行(ゆ)く」。「道(みち)」は一四句に既出で、「人の行き来するところ。通行するための筋。…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百六)

 今回は、一七三八番歌の五句からを訓む。  五句・六句「胸別之・廣吾妹」は「胸別(むなわけ)の・廣(ひろ)き吾妹(わぎも)」と訓む。「胸別(むなわけ)」は、「胸。胸幅」の意。一五九九番歌に「鹿などが草木を胸で押し分けて行くこと。」をいう「胸別(むなわ)け」があった。「之」は漢文の助字で、連体助詞「の」。「廣」は「広」の旧字で、ク活用形容詞「ひろし」の連体形「廣(ひろ)き」。「吾妹(わぎも)」(一…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百五)

 今回は、一七三八番歌を訓む。題詞に「詠上総末珠名娘子一首[并短歌]」とある。これを訓読すると「上総(かみつふさ)の末(すゑ)の珠名娘子(たまなをとめ)を詠(よ)む一首(しゆ)[并(あは)せて短歌(たんか)]」となる。本歌は、二十九句からなる長歌で、反歌一首(一七三九番歌)を伴う。  「上総」について、阿蘇『萬葉集全歌講義』は次のように述べている。  上総(かみつふさ) 千葉県南部。古くは広く…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百四)

 今回は、一七三七番歌を訓む。題詞に「兵部川原歌一首」とあり、本歌は、「兵部(ひやうぶ)の川原(かはら)の歌(うた)」である。作者の「兵部(ひやうぶ)の川原(かはら)」について、金井『萬葉集全注』は「○兵部の川原 兵部省に勤めている川原を氏の名とする人物をいうのであろう。この歌の作者に適合する人物は見出せないが、川原氏は大化五年条に野中川原史満があり、集中には川原虫麻呂(防人、20・四三四〇)が…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百三)

 今回は、一七三六番歌を訓む。題詞に「式部大倭芳野作歌一首」とあり、本歌は、「式部(しきぶ)の大倭(やまと)の芳野(よしの)にして作(つく)る歌(うた)」である。作者の「式部(しきぶ)の大倭(やまと)」について、金井『萬葉集全注』は次のように述べている。  ○式部の大倭 大和(やまと)宿祢長岡のことか。長岡については続紀神護景雲三年(七六九)十月条に卒伝を載せる。若くして法律の学に長じ、又文章…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百二)

 今回は、一七三五番歌を訓む。題詞に「伊保麻呂歌一首」とあり、本歌は、「伊保麻呂(いほまろ)の歌(うた)」である。阿蘇『萬葉集全歌講義』に「伊保麻呂 未詳。養老戸籍の孔王部(あなほべの)五百麻呂(いほまろ)をはじめ同名の人は多い。」とある。  写本に異同はなく、原文は次の通り。   吾疊 三重乃河原之 礒裏尓    如是鴨跡 鳴河蝦可物   一句「吾疊」は「吾(わ)が疊(たたみ)」と訓む。…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百一)

 今回は、一七三四番歌を訓む。題詞に「少辨歌一首」とあり、本歌は、「少辨(せうべん)の歌(うた)」である。作者について、阿蘇『萬葉集全歌講義』は「小弁」として次のように記している。  小弁 少弁(辨)とも。左右弁官の第三等官。正五位下相当。八省の事務を率いる弁官の定員は左右の大中少の計六名で、三等官である小弁は、左少弁は文事を、右少弁は武事を管掌した。巻三・三〇五の高市黒人の歌の左注にも、巻九…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千百)

 今回は、一七三三番歌を訓む。本歌は、「碁師(ごし)の歌(うた)」の二首目。   写本に異同はなく、原文は次の通り。   思乍 雖来々不勝而    水尾埼 真長乃浦乎    又顧津  一句「思乍」は「思(おも)ひつつ」と訓む。「思」はハ行四段活用の他動詞「おもふ」の連用形「思(おも)ひ」。「おもふ」は「何か具体的な考えや感情を心にいだく」ことをいう。「乍」(一七三〇番歌他に既出)は、活用語の…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十九)

 今回は、一七三二番歌を訓む。題詞に「碁師歌二首」とあり、本歌と次歌(一七三三番歌)の二首は、「碁師(ごし)の歌(うた)」である。「碁師(ごし)」について、阿蘇『萬葉集全歌講義』が詳しく注しているので引用しておく。  碁師 伝壬生隆祐本・紀州本に基師、藍紙本・類聚古集・西本願寺本ほかは碁師。今、多くは碁師をとり、碁檀越(ごのだんをち)(4・五〇〇歌の作者)と同一人とする説や碁氏出身の法師かとす…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十八)

 今回は、一七三一番歌を訓む。本歌は「宇合卿歌三首」の三首目。  写本の異同は、三句二字目<麻>。『西本願寺本』以降の諸本に「靡」とあるが、『藍紙本』『伝壬生隆祐筆本』『類聚古集』に「麻」とあるのを採る。原文は次の通り。   山科乃 石田社尓 布<麻>越者    蓋吾妹尓 直相鴨  一句「山科乃」は「山科(やましな)の」と訓む。この句は、前歌(一七三〇番歌)一句「山品之」と表記は異なるが同句…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十七)

 今回は、一七三〇番歌を訓む。本歌は「宇合卿歌三首」の二首目。  写本に異同はなく、原文は次の通り。   山品之 石田乃小野之 母蘇原   見乍哉公之 山道越良武   一句「山品之」は「山品(やましな)[山科]の」と訓む。「山品」は、地名「やましな[山科]」。「之」は漢文の助字で、連体助詞「の」。『日本国語大辞典』に「やましな【山科】 京都市の行政区の一つ。市の南東部、山科盆地の北半部にあ…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十六)

 今回は、一七二九番歌を訓む。題詞に「宇合卿歌三首」とあり、本歌〜一七三一番歌の三首は「宇合卿(うまかいのまへつきみ)の歌(うた)」である。「宇合卿」について、阿蘇『萬葉集全歌講義』は次のように注している。  宇合卿 藤原不比等の第三子。母は蘇我武羅自古の女娼子。式家の祖。本名、馬養。霊亀二年(七一六)八月、遣唐副使、同月、正六位下から従五位下に。養老三年(七一九)正月、正五位上。同年七月、常…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十五)

 今回は、一七二八番歌を訓む。題詞に「石川卿歌一首」とあり、本歌は「石川卿(いしかはのまへつきみ)の歌(うた)」である。「石川卿」について、金子『萬葉集全注』は次のように注している。  ○石川卿 石川卿は石川年足か(古義)、石川宮麻呂(注釈)かと考えられる。年足は19・四二七四に作がある。天平七年(七三五)従五位下、天平宝字六年(七六二)、御史大夫正三位兼文部卿神祇伯で薨。時に七五歳とある(続…

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水なもとの 雪を溶かして、、日々、一歌105/365+1

日々、一歌105/365+1 水なもとの 雪を溶かして 早緑は 燃え競ふらん 春ぞ来にけむ  やはり敵わん! そもそも志貴皇子という、その名さへ律動充満! 志貴皇子のよろこびの御歌一首 石走る 垂水の上の 早蕨の  萌え出づる春に  なりにけるかも 万葉集.巻八.一四一八 画/釧路湿原

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十四)

 今回は、一七二七番歌を訓む。題詞に「和歌一首」とあり、本歌は前歌(一七二六番歌に「和(こた)ふる歌(うた)」である。  写本の異同は、五句の一字目<妾>。この字、『細川本』『大矢本』と版本に「妻」とあるが、その他の諸本いずれも「妾」とあるので、これを採る。なお、五句の原文とその訓については、誤字・脱字説を含めて諸説があるなかで、井上『萬葉集新考』に「妾名者不教の誤としてワガ名ハノラジとよむべし…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十三)

 今回は、一七二六番歌を訓む。題詞に「丹比真人歌一首」とあり、本歌は「丹比真人(たぢひのまひと)の歌(うた)」である。「丹比真人(たぢひのまひと)」について、金井『萬葉集全注』は次のように注している。  ○丹比真人 名を欠くので誰とも知られない。天武紀十三年(六八四)十月に丹比公(きみ)が真人の姓(かばね)を賜わったことが書紀に見える。万葉集には、丹比真人を名告る歌人が、乙麻呂、国人、屋主とあ…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十二)

 今回は、一七二五番歌を訓む。題詞に「麻呂歌一首」とあり、本歌は「麻呂(まろ)の歌(うた)」である。「麻呂(まろ)」について、金井『萬葉集全注』は次のように注している。  ○麻呂 未詳。左注にこの歌以前を人麻呂歌集の歌とするので、「麻呂」は人麻呂とする説が多い(私注、全註釈、窪田評釈など)。しかし人麻呂ならば「人麻呂」と記し「麻呂」とは記さないだろう。「麻呂」という固有名詞は、この時代に多いか…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十一)

 今回は、一七二四番歌を訓む。題詞に「嶋足歌一首」とあり、本歌は「嶋足(しまたり)の歌(うた)」である。阿蘇『萬葉集全歌講義』に「島足 氏姓不明。伝不明。歌はこの一首のみ。」とある。  写本に異同はなく、原文は次の通り。   欲見 来之久毛知久    吉野川 音清左    見二友敷   一句「欲見」は「見(み)まく欲(ほ)り」と訓む。この句は、一三九一番歌三句他と同句。「欲」はラ行四段活用の…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千九十)

 今回は、一七二三番歌を訓む。題詞に「絹歌一首」とあり、本歌は「絹(きぬ)の歌(うた)」である。「絹(きぬ)」は人名であることは間違いないが不明。阿蘇『萬葉集全歌講義』は次のように注している。  絹 絹の名は一見女性的だが、娘子とも、「……売(め)」ともなく、遊行女婦ともないところから見て、男子の通称であろう。全註釈に「絹麻呂とでもいう人だろう」とする。憶良が自分のことを良といった例(15・三…

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『万葉集』を訓(よ)む(その二千八十九)

 今回は、一七二二番歌を訓む。本歌は「元仁歌三首」の三首目。  写本の異同は、五句三字目<真>。『西本願寺本』他に「莫」とあるが、『伝壬生隆祐筆本』『類聚古集』『古葉略類聚鈔』に「真」とあるのを採る。  原文は次の通り。   吉野川 河浪高見    多寸能浦乎 不視歟成嘗    戀布<真>國  一句「吉野川」は「吉野川(よしのがは)」と訓む。この句は、前歌(一七二一番歌)の三句と同句。「吉野…